そば屋のたけし

ここ最近、気になっている少年がひとりいる。

それは、そば屋のたけし。
そば屋は、僕が勤める会社の近くにあるお店。
たけしは、多分そこの息子で、おそらく小学3、4年生くらい。
決してデブではないのだけど、いかにも健康優良児といった感じの、小学生らしいムチムチ感のある体格をしている、スポーツ刈りの少年である。
ちなみに、たけしという名前は、僕が見た目から勝手につけた。なんかもう、見るからに「たけし!」と呼びたくなるような見た目、雰囲気、バイブスを放っているため、出会った瞬間から心の中で名付けたのだ。名付けたというか、むしろきっと、たけしに違いない! と思っている。
字は多分、「健」もしくは「武」。現代に染まりすぎてない、昭和の申し子的小学生、This is たけし。

彼を見かけるのは、いつも夕方から夜にかけて。
僕が会社を出て駅までの道を歩いていると、たけしはいつもひとりでお店の前にいる。
お店の前の道路で、いつもひとりで遊んでいる。

夕暮れのオレンジや、ときにはに宵闇の中の街灯に照らされて、ひとりで遊ぶたけしを見ると、何とも言えない切なさを感じてしまう。

友だちはもうみんな、ご飯の時間なので、おうちに帰ってしまった。
たけしはそば屋の息子。ご飯どきは、両親はお店に立っていて忙しい。
まだまだ、遊びたいけれど、しょうがない。ひとりぼっちになったたけしは、お店の前の道路で、ボールを蹴る。

何度となくそんな光景を見るので、その店の前を通るたびに、僕はたけしがいないか気にするようになっていた。

店の前の道路で、壁を相手にキャッチボールするたけし。
店の前の道路で、リフティングをするたけし。
店の前の道路で、クラウチングスタートの練習をするたけし。
そして時には、店の隅っこのテーブルで店内のテレビを見ながら宿題をやるたけし。

たけしは親から愛情をたっぷり注がれてるんだろうか。
忙しいという理由で、夏休みに旅行に連れていってもらえていないのではないか。
運動会のとき、両親とも店を休めないために、ひとりで寂しく弁当を食べたりしてはいないだろうか。

たけしを見て、センチメンタルに思ってしまうのは、
完全にこっちの思い入れだけで、たけし及び、ご家族のみなさまにとってはいい迷惑でしょう!
しかし、夕暮れ(もしくは宵闇)と、ひとりぼっちで遊ぶ少年、しかも家は自営業、という組み合わせは、想像の中でおセンチを熟成させるには十分すぎる素材と言える。

自分の中にある切なさを、たけしに投影しては、帰り道ひとりで反芻するのだ。
ああ、僕はたけしから目が離せない。たけし、たけし、本名は決して知らない。

と、ここまで書いておいたけれど、実はこの後日、そば屋の前を通って、またたけしを見た。
たけしはいつものように、ボールを蹴っていたが、この日はひとりではなかった。
(たぶん)お母さんと、ボールを蹴りあっては、楽しそうに話していた。

勝手に切なさを味わい、その余韻に浸っていた僕は、幸せそうな光景を少し寂しくも思ったけれど、でもやはり笑顔のたけしと家族の姿は、そんな僕でも十分グッと来るものだった。
たけし、元気に育てよ!

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